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Channel: オルフェウスの窓
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ふきのとう

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 今朝、同僚の先生からふきのとうをいただいた。「洗うと弱るから、土付きで持ってきたよ。」と手渡されたビニル袋には、いっぱいのふきのとう。朝から摘んでくださったのかと思うと、有り難くてならなかった。
 
 ふきのとうを食べたのは、去年、その先生にいただいて天ぷらにしたのが初めてだった。ほろ苦い早春の味とは聞いて興味はあったものの、八百屋さんで見かけることは希だったし、たまにカゴ盛りにしてあるのを見つけても、結構なお値段がついているので、ついつい流してしまっていた。
 そんな話を職員室でしたからだろう、ある日、「近くにたくさん見つけたから」と下さったのだった。奥様からは、佃煮にする場合と天ぷらにする場合のレシピ付き。初物のプレゼントはこうあるべきというお手本にしたいスマートさだった。
 
 そして、今年もいただいた。
 昨年は天ぷらにして食べたが、このほろ苦さを堪能できるのは、ある程度は人生のほろ苦さを知った者でなければならないだろうなと思った。子どもになんて、味わえる味ではないのだ。これは大人の春の味である。出会いと別れを噛みしめ、新しい夢がいつもいつも叶うわけではないことに一人で苦しむ、新人が現れて自分の価値観はもしかしたら間違っているのではないか、時代遅れなのではないかと葛藤する、年取った者には、春は華やかすぎる季節ではないのである。だから、ふきのとうを味わえる。そう思う。
 
 今年はこんなにもたくさんいただいたから、佃煮にしてみよう。
 寒い早朝、野に出て摘んでくださる方の優しさに包まれて、私は職場にいるんだな、それを忘れてはいけないなと、今朝は改めて感じたことだった。

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